ずるずるとそのまま浴室の前まで先生を引っ張っていって、バスタブに熱いお湯を威勢良く入れた。
ご機嫌斜めのカカシ先生はずっとされるがままだったけど、とりあえずは言う事を聞いてくれた。
「ふー・・・」
洗濯機に汚れ物を放り込んでスイッチを入れ、ほっと一息ついていると、ふと大変な事に気が付く。
「あ・・・、しまったぁ・・・」
どうしよう・・・。
先生の食べる物が何にもないよ・・・。
まさか今日帰ってくるとは思わなかったから、余分な食材は何も買ってこなかった。
カップラーメンくらいは置いてあるけど、せっかくのイブの夜にそれもあんまりだし・・・。
うーん、しようがない。急いでコンビニかスーパーに行って何か買ってこよう。
「先生ーっ、ちょっとお留守番しててー!」
慌ててコートに袖を通し、お財布を引っ掴む。
あれこれ買う物を考えながら、バタバタと大慌てで玄関に向かおうとすると、
「・・・どこ行くんだよ」
「うひゃぁーーっ!」
背後から、またしても拘束されてしまった。
「せ、先生・・・、お風呂入ってたんじゃ・・・」
「どこ行く気だ」
怒ったようにギュギュッと、更に強く腕の中に閉じ込められる。
濡れた髪の先からポタポタと滴が垂れ落ちて、襟の隙間から背中に入ってきた。
ヒヤッとした感触に、思わず身体が震え上がる。
それでも先生はお構いなしにずっと私を抱きかかえたままで・・・。
私はどうしていいのか分からず、俯いてじっとしているしかなかった。
「えっ・・・と・・・」
「・・・・・・」
困ったな・・・。
なんか先生怖くて、上手く喋れない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
一分経ったのか、二分経ったのか。
それともまだ十秒も経っていないのか・・・。
気まずいようなおかしな雰囲気の中、先生の細かな息遣いがずっと私の耳元をくすぐっている。
(あ・・・、この感じ・・・)
ドキドキドキドキ・・・
突然襲ってきた懐かしい感覚に、心臓が勝手に暴れ出した。
コートの上からでも、絶対カカシ先生にばれてるに違いない。
どうしよう・・・。深呼吸して誤魔化したいけど・・・。
でも、全然身動きが取れやしない・・・!
「カカシ先生・・・、そんな格好してたら、風邪引いちゃうよ・・・」
「こら、ちゃんと質問に答えろ。どこへ行くつもりだったんだ」
「先生の・・・ご飯、何か作ろうと思って・・・材料を・・・」
「・・・いいよ。そんなの買いに行かなくても」
「でも・・・、何にもないのよ。せっかく、帰ってきてくれたのに・・・」
「いいって言ってるだろ」
半ば強引にお財布を取り上げられ、もう一度強く抱き締められた。
「あ・・・」
コートの上から、確かめるようにゆっくりと身体中をまさぐられる。
たったそれだけなのに、その先の展開を知っている私の身体は早くも期待に疼き始めた。
「ま、待って・・・。本当に風邪引いちゃうからちゃんと・・・」
「なら温めてよ。サクラが」
するりとコートを脱がされ、うなじや耳朶に何度も唇を押し当てられた。
痺れるような甘い刺激がじわじわと広がり出して、どんどん神経が研ぎ澄まされていく。
私の弱みを知ってる指が、焦らすように急かすようにあちこちを這い回って、どんどん私を絡め取っていった。
どうしよう・・・。逃げられない・・・。
「ふっ・・・・・・うぅ・・・」
息が上がる。呼吸が乱れる。
膝小僧がガクガク震えて止まらない。
先生の腕に必死にしがみ付いて我慢しているのがやっとの状態。
先生の息遣いもだんだん荒くなって、身体をまさぐる動きがせわしなくなってきた。
「逢いたかった・・・。ずっとサクラに逢いたくて仕方なかった・・・」
「せ、んせ・・・」
「こうやって、サクラに触れたくて・・・、サクラにキスしたくて堪らなかった・・・」
「ん・・・んぅぅ・・・」
「いつもサクラの事が頭を離れなくて・・・、サクラの事ばっかり考えていて・・・、気が付いたら、サクラに逢いに来ていた・・・」
「ふあっ・・・あぁ・・・・・・・・・ああーーっ」
「変だよな。でも本当に・・・お前に逢いたくて・・・、逢いたくて逢いたくて・・・」
だめ・・・。もう限界・・・。
耳元で囁く声がどんどん私の理性を奪い取っていく。
ゾクゾクした快感が全身を駆け巡って、もう今にもどうにかなってしまいそう。
ふわりと身体を持ち上げられ、喘ぐ口元を強く塞がれて、思わずきつく目を閉じる。
まぶたの奥に残ったカカシ先生の笑顔が、ゆっくりと私の中に溶け広がっていった。
「 あ い し て る ・・・ 」
記憶があるのはそこまでで・・・。
もうその後は、転がり落ちるように大きな渦にどんどん呑み込まれていって、果てしなく流されて。
ずっとカカシ先生に翻弄されて、そして、必死にもがき続けていた。